座る男

版権小説(銀高)
10 /25 2017
 ツイッターの週刊銀高さんのお題「座椅子」用に書いてたものですが、間に合いませんでした…。思い付いたのが当日ギリギリだったもんで…。 

 基本設定→虚との戦いが終わった後の世界で、少しずつ復興していく江戸が舞台。左腕を失った高杉を江戸の外れの田舎にある一軒家に住まわせる銀時。ゆるい軟禁がテーマの日常夜話。


座る男

 秋晴れの、空を高く感じる日の午後。銀時は1週間ぶりではあるが、いつものように高杉の住む家へと行き、いつものように高杉の部屋へ行く。しかし部屋はいつもの光景とは少し違っていた。見覚えのない生き物が見た事もない座椅子の上にいた。

白い猫。

 猫は柿渋色の古い座椅子に丸くなって寝ている。警戒心なんてまるでなく、銀時がどかどかと足音立てて歩いているというのに、目を覚ます気配すらない。置物ではないかとよく見てみたら、呼吸に合わせて身体が上下しているのが確認できた。正真正銘生きた猫。余り若くなく年がいってる感じがした。痩せて骨ばっていて、所々毛が薄かった。
 勝手に入ってきたのかと、銀時は開けっ放しの縁側を見た。秋が深まり、庭の木々はすっかり色付いていた。毎日掃除しても枯れた葉が庭を覆う季節。今日は天気が良くて空気も乾燥している。番いの蜻蛉が空を行きつ戻りつしている穏やかな日。ここの主は姿が見えないが散歩にでも行ったのだろうか。

 ナァーン

 か細い声が、まるで話しかけるように聞こえた。振り向くと、さっきまで丸くなっていた猫がちょこなんと座椅子に猫らしい行儀の良さで座っていた。

 ナァァン

 金色に緑がかった瞳には銀時が映る。あきらかに銀時に向かって話しかけている。

「何か御用でも?」

 あまりにも人間に慣れた様子は飼い猫の可能性が大である。そう言えば首に何かついている。よく見ると赤い首輪に木製の鈴が付いていた。鈴は控えめな音でコロンと鳴った。

「あぁ、丁度良い所にきたな」

 縁側から声がした。銀時は振り返らずにその声に答える。

「猫に言ったんですー」

「猫とお話か?」

 高杉は沓脱石の上で草履を脱いで縁側から上がってきた。高杉は猫がいるのを知っている風だったので、勝手に入ってきた猫でない事が銀時には判った。高杉は小さい笊を持っていた。裏庭のギンナンか栗でも拾ってきたのかもしれない。

「猫飼うの? ちゃんと最後まで世話できる? 結局お母さんが世話するパターンになんないよね? これ」

「誰がお母さんだよ…」

「それとこの座椅子は? 通販で買ったの? それにしちゃ古ぼけて…」

 部屋にスッと入ってきた高杉の足元に、白猫は体をすりつける。これは昨日今日招き入れた感じがしない。

「え?いつから? いつから飼ってんの?」

「飼ってねェ、預かったんだ。飼い主が危篤だそうだ」

「……」

 高杉が笊を、銀時の方に押し付けてきた。笊の中身はやはりギンナンだった。きっと茶わん蒸しでも食べたくなったんだろう。笊の中のギンナンはそれ位の量だった。ギンナンは食べ過ぎると毒になると聞くが、これを食べ過ぎる者はそういないと銀時は思った。

「医者がいただろう、村外れにある庵に住んでた。その医者の猫だ。座椅子もその医者が書き物する時に使ってたやつだってよ。殆ど猫が占領してたらしいが」

 銀時の頭の中ではグルグルと聞きたい事が渦巻く。飼い猫を預かる程の知り合いがいた事も知らなかった。

「猫は危篤の事知ってんの?」

 笊を受け取りながらの銀時の問いに、高杉はふっと息を吐いた。笑ったつもりだったらしいが、溜息にしか聞こえない。

「鈴って名前なんだと。…さぁなぁ、気付いてるかもしれねェ」

 白猫、鈴は高杉だけではなく、銀時の足にも体をこすりつけてきた。銀時は猫の側にしゃがむと痩せて固い身体を撫でてやった。鈴は気持ちよさそうに銀時の掌に頭を擦り寄せた。



 その夜はとても静かだった。 何もかもが息を潜めているような夜。 夜は何かを待っているように、静かだった。

 一つの布団で横になっている銀時と高杉の間に、鈴は潜りこんできた。一応猫のベッドも預かっていたのだが、そこでは寝るつもりはないようだ。
 高杉が鈴の痩せた体をゆっくり撫でる。鈴の長い尻尾は銀時の手首にくるんと巻き付いていた。部屋の常夜灯の橙色が人間と猫を浮かび上がらせる。誰も、もう寝ようと言わなかったし、眠る気配もなかった。

 夜が深くなった頃に、鈴が閉じていた目をパチリと開けて起き上った。座椅子の周りを落ち着きなくクルクルと回りはじめる。そして一旦ちょこんと座って、ナァンとか細い声で座椅子に向かって鳴いて喉を鳴らす。

「どうした? トイレ?」

 銀時が恐る恐る聞いた。鈴は優雅に何かにすり寄るような仕草で障子の前まで行き、障子を開けて欲しいとばかりに手をかけた。銀時はそっと障子を開けてやる。鈴は縁側の雨戸にも両手をかけた。

「そこも開けろってか?」

 そう言ってすっかり滑りの悪くなった雨戸をガタガタと開けてやる。外に飛び出した鈴は、白い身体を闇夜に溶けさせた。

 コロンと鈴の音を残して。

「おーい…鈴さーん…?」

 夜の闇からは何も返事はない。家の中から漏れる僅かな灯りは何者も浮かび上がらせなかった。銀時は耳に手を当てて注意深く音を拾う仕草をした。そんなお道化たポーズでもとらないと震えそうだった。
 
「銀時」

 高杉がそっと銀時の名を呼ぶ声に、ビクリと体を強張らせた。

「あれってまさか…だよな、座椅子の所に…」

 銀時は鈴が消えて行った闇に向けて呟いた。

「銀時、戻ってこい」

 高杉に呼ばれて、茫然としたまま銀時は部屋の中に戻る。足先が酷く冷えていた事に気付き、足指をもぞつかせる。高杉は布団の上から一歩も動いておらず、横になったまま座椅子を見つめていた。

「……」

 銀時もチラリと座椅子を見た。だが直視出来なくて、視線が泳ぐ。

「銀時、来い」

 高杉が上目遣いで、銀時を見ながら自分の横の空白を指差す。今まで銀時が横になっていた場所は皺が人型に寄っていた。高杉に言われた通り、銀時は高杉の側に再び横になる。

「もう誰もいねェよ」

 高杉の声だけが、部屋の中に静かに響いた。

「ここには、俺とお前しかいない」

 二人、横に並んで。たった二人。高杉の言い方は銀時を安心させる為に言ったのではないようだった。

「鈴はもう戻ってこねェだろうな…」

 高杉がそう言ってそっと目を閉じる。銀時には、高杉がもう眠そうに見えた。銀時はそっと、高杉の左の瞼を撫でた。潰れてしまった目を。それから右の瞼もそっと撫でる。瞼の下で眼球が動く感触がした。

「本当はテメェがくるまでは鈴も大分弱ってたんだ…」

 あの座椅子に座って猫との日々を過ごした医者。

 医者はさっきまでその座椅子に座って居たのかもしれない。大の男が一つの布団で二人横になっている姿はさぞ奇異に映った事だろう。鈴が間に入ってこなければきっとセックスをしていたと思う。1週間会わなかった分とばかりに。そんなものを目撃してしまったら気の毒だ。銀時は幽霊に対する恐怖をそんな滑稽な想像にすり替えて紛らわそうとした。

 ふっと。

 高杉が、微笑んだ。まさか同じ事を考えてたんじゃあるまいな、という思いを込めて銀時は高杉の睫毛をパラパラと親指でなぞる。指先で踊っているだろう睫毛は暗い照明の下ではよく見えはしないが、感触だけははっきりと残った。


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クリスタいじり

雑談
10 /09 2017
 たまには雑談でも…と思って久し振りにここを開いて、過去記事見てみたら…。拍手いただいてましたね…(というか…通知とか無いんですか…)。ずっと気付かなかった…。嬉しいです、有難うございます~!! 読んでる方がいるって思うと幸せです。読んでもらえるだけでいいです、満足…。


 CLIPSTUDIOっていう漫画とかイラストとか描くソフトあるんですけど、これって有料だけどプラグイン入れてPDFで書き出し出来るんですね…。凄くないですか…。でも使い方全然判ってないから、使い慣れてこれで小説本出してみたい! 欲がムラムラと…。というか、いつか出したいって思ってたし、丁度いいかも。

 それと、そろそろクリスタのフォント増やしたいなって思ってフリーフォントとか探してたんですよ。それで良さげなフォントを入れる段になって、どうもセルシスさんの説明読んでも分からない事に気付いて…。なんでこうなるん…?って思ってたら、簡潔過ぎたんですね…あれは。 多分自分のパソコンにインストールしたフォントが自動で読み込まれるんですよね、クリスタって。だからフォントを自分のパソコンにインストールした時点で完了なんですね。成る程…。

 拡張子otfもttfも今の所問題なく使えてます。

 
 やっぱり使い慣れないと駄目ですね…ソフトって…。

 あ、因みに。クリスタは文書作成するには向いてないので、真似しない方がいいです…。


 ただつらつら書いてるだけならEvernoteとか使ってるんですけど、無性に縦書きしたくなりません…?最近こういうソフトみつけてワクテカしたり…

エディタ 

使い勝手はいいか分かりません…。私はどんな簡単なものでも使いこなした試しはないです。


 アナログでも書きたいです…。原稿用紙あるので。だけどね、自分でも読めない字を書く時あるからなぁ…私…。こういうのに万年筆とか使いたいけど、無理だわ…。

原稿用紙 

けらくのゆめ

版権小説(銀高)
10 /01 2017
季節を意識した銀高小説書きました。
「el paradiso(蟻の夢)」という、虚との戦いが終わった後の世界を舞台にして書いてるシリーズものです。サ●エさんみたいに続けたい気がする、二人だけの世界。


けらくの夢


 枯れた葉が、カサカサと庭を踊る季節になった。急激に朝晩の気温が
下がった事で少々体調を崩していた隻眼隻腕の男は、庭の手入れされた
木々を眺めながら咳を一つした。

 弱ったな

 と男は思った。若い頃はもう少し無茶が出来たもだが、今は少しの
環境の変化が体調に影響するようになった。気のせいなのかもしれな
いが、確実に昔より体調を崩すことが多くなった。
 それでも数日前よりは大分楽になったから、こうして外の空気を吸
うために庭やら家の周りを散歩している。

 まだ青い葉が揺れている樹に枯れた葉が混じっているのを見ると、
昨夜の銀髪の男と過ごした時間を思い出す。

 隻眼の男の頭髪をいじりながら、銀髪の男は白髪探しをしていた。
体を重ねた後のひと時。布団の中で、まだお互いには行為の余韻が
残っていた。銀髪の男は抜くつもりで白髪を探していた風ではなく、
髪に触れていただけ。

 好きなようにさせていたけれど、風邪が感染るのではないかと隻眼
の男は気が気でなかった。昔からよく風邪をひいていたのは銀髪の男
の方だったからだ。体調が良くないからと言ったのに、銀髪の男に導
かれるままほぼ無理矢理抱かれて、憤慨して、快楽に身を捩って。

 篭絡されたようで、今の環境は好きじゃなかったのに。


 ジリリリリン!!


 玄関の黒電話がけたたましい音を立てている。先日事務所の電話を
新調したからお古をやると言って銀髪の男が持ってきた物だ。その割
には新品のような電話であった。
 殆どかかってくる事もないのに電話線を引くことになった。携帯電
話の方が便利なのに。

 少し小走りで玄関に向かう。引き戸を開けると、音がとても大きく
空気を震わせているのが判る。
 電話用の台の上に置かれた黒電話の受話器を取る。ズシリと重い物
を耳に当てると、今朝方聞いたばかりの声が耳に届く。声は酷く枯れ
ていた。聞き取り難い程に枯れてしまった声に、だから言ったのに、
バカだなと隻眼の男は苦笑いした。


「お大事に」

外科室の鈴

版権小説(銀高)
09 /24 2017
Twitterの週刊銀高さん用に書いたものでしたが、お題と大分離れてたので(お題は「白夜叉×万事屋晋ちゃん」)タグつけるのやめました。 どっちかというと、白夜叉×高杉で…。しかもまだ芽生えでした…。最後の方急ぎすぎたので、サイトに載せる時に加筆出来ればいいなぁと…




外科室の鈴

 今日も患者サマでお部屋の中はいっぱいでございます。 
私はこの通り、先生の手伝いなどとても出来る身ではありませんので、いつも先生や助手の方が忙しくしていらっしゃるのをただ窓の外から眺めるばかりでございました。



 先生と助手の方が「ゲカシツ」と呼ぶ狭いお部屋がございまして、そこに男の方二人が、自らの足で歩きながらではありますが、血まみれの顔で入ってきたのを、たまたま私はみていました。
イクサで毎日怪我人がくるとは言え、このニオイには一向慣れません。

 外にまで流れて来る鉄の匂いに、鼻を手で覆う仕草をすると、私のお守りの鈴が、コロンと音をたてました。

 先生がそれに気付き、格子窓に近付いて参ります。仕事の邪魔をしてしまったと樹の葉の影で身を竦ませていると、先生はニッコリ笑って

「鈴さん、もう何人か診たら一旦休憩しますから、待っていなされ」

 と仰いました。まだ今日の食事を戴いていないのを思い出すと急に空腹を感じ、はいと小さく返事をすると、先生は頷いて患者サマの元に戻りました。


 先程の男の方達は、放心というのか、何も話す事はなく、静かに先生と助手の方達の手当てを受けていました。
 一人は見た事のない白い頭で、頭髪も白い装束もドロドロに汚れてしまっていました。
もう一人の方は黒い髪に黒の洋装で、汚れはここからでは確認出来ませんが、白い顔にべったりと血がついていたので、きっと白い頭の方と同じくらいには汚れてしまっているのだと思います。

 お二人共、おんなじように左目が潰れていました。

 処置の痛々しさはこれまでも見たことがありましたが、これはとても見られないと、私はグッと目を閉じでゲカシツの気配だけを全身に感じるように神経を集中させました。

 どちらかは分りませんが、時々呻きの声を上げます。でも、とても静かなものでした。
先生方も、一言も声をかける事なく処置が進んでいるのが判りました。


 暫くすると、ボソボソと声が聞こえてきました。先生が、男の方二人と何か話しています。
処置が終わったと思い、目をそっと開くと男の方二人はすっかり横になっていました。
先生達はゲカシツを出て、次の患者サマの元へ行ったようです。

 顔だけは綺麗に洗浄されて横になっているお二人の顔色はとても悪く、もしかしたら死んでしまうのではと思わせる程でした。
 私は気になって身を乗り出しました。するとコロンとまたお守りが音をたてます。

 目を閉じていた白い髪の男の方が、片目を開き難そうに開けて、部屋を見回しています。

 次にジッと格子窓を見つめて、音の元を探していらっしゃるように見えました。私は樹の葉の影に身を潜ませます。男の方の、射るような目が恐ろしかったからでございます。

 ひとしきり探した後、白い髪の方は天井をじっと見つめていました。

 もう一人の黒髪の方は、目を閉じて眠っているようにピクリとも動きません。

 あまりにも静かなゲカシツには、別の部屋の喧騒が聞こえている事でしょう。痛みを訴える声や、心配する声や、金属音や…。

 「おい」

 突然、白い髪の方が声を出したので、飛び上がる程驚きました。
私に声をかけたのかと思われる程に鮮明な声でしたが、白い髪の方は隣の黒髪の方に声をかけたようでした。

 「寝てんの?」

 白い髪の方は探るように黒髪の方の様子を伺っておりました。
それでも黒髪の方は尚ピクリともしないのです。ただ、胸が上下しているのは分りましたので、息をしている事だけは確認できました。

 白い髪の方はじっと、黒髪の方を睨むように見つめていました。

 そうしたら、


 白い髪の方は笑ったのです。


 声を立てる笑いではなく、口元と目元だけが少し動いただけでしたが、確かにあれは「笑って」いたと思います。

 ああいう場合の「笑い」の意味は、私には判りません。

 笑ってはいなかったのかもしれません。悲しいのかもしれない。怒っているのかもしれない。
でも確かに、それまでまるっきり表情の無い方の顔がほんの少し変わったのは分りました。

 白い髪の男の方は暫くじっと黒髪の方を見つめていました。
そして身を、隣のお布団の黒髪の方に近付けます。黒髪の方の顔を覗き込み、また暫くジッと動かず見つめている白い髪の方の表情はもう影になってこちらからは見えません。

 また笑っているのかしら。それとも。

 白い髪の男の方が突然身を起こしました。もう始めに見た無表情になって立ち上がると、ゲカシツを出ていってしまいました。
すると、なんと今度は黒髪の方が残った目を薄ら開けているのです。もしかして寝ているふりをしていたのでしょうか。

 こちらの男の方も、ジッと天井を見ていました。
先程の白い髪の男の方よりは幾分、悲しそうに見えました。

 もっとよく見ようと動くと、コロンと私の首にかけてある鈴が鳴ります。

 黒髪の方は、一瞬で私の姿をとらえました。私の白いだろう姿を。そして掠れた声で呟きます。

「猫か」


 私は私の姿を知りませんが、先生が白い猫と仰るので、私は白猫なのです。


「真っ白だな、綺麗な白だ」


 黒髪の方は私のことを見つめながら絞り出すような声で囁きます。私を見てはいるけれど私に言ってるのではないのがわかります。あの白い髪の方のことを言っているのです。
そんなに辛いのなら、何故呼び止めなかったのと聞きたいけれど聞けません。


 私だったら行かないでと鳴くのに。

壺中の天

版権小説(銀高)
09 /17 2017
Twitterの週刊銀高さん(@gntk1w)のお題「お酒」より。

「蟻の夢」シリーズの世界線で書いてます。今の虚との戦いが終わった後の世界です。



壺中のてん(こちゅうのてん)


この頃美味い酒を飲んでねーな

 そんな事を考えながら、大江戸スーパーで買った酒が入った袋を目の前まで掲げた。
戦の後に物資不足だった江戸に段々物が出回るようになってきたが、タイミングがあわないと中々こういう物は手に入り難い。

品質は戦前より落ちるのも仕方ない。今は飲めるだけ有難いってもんだ。



 原チャリに跨って、夜道を走る。目的地はアイツが住む一軒家。


 奴は俺が持っていく土産に不平不満は言わない。満足しなくてもあまり顔に出さない。
こっちが揶揄ったりする時だけ、面白いくらいに顔が変わる。そこだけはずっと変わらない。

 つい口元が綻んでしまったのを引き締める。

 戦で崩壊した街には明かりが少なく、夜空の星は一つ一つ色まで見えるほどハッキリ光っている。
月の無い、少し肌寒い夜。



 明るければ銀鱗に見える瓦屋根の平家が高杉が今住んでいる家。
この家の持ち主はここに女を囲っていた。女は出ていき、空き家になる筈だった家を格安で借りる事ができた。

 原チャリを止めて、家に入る。家の中は外と殆ど変わらない寒さに感じた。
廊下の電気のスイッチを押した。オレンジの光が点る。この光景を見るとおかしな気分になる。昼間とは違う、別世界。


 高杉の寝室の障子を開ける。そんなに遅い時間ではなかったが、奴は布団に横になって眠っている。
肌寒いけれどまだ夏掛けを使っているようだ。

 俺が来ても気付かないことが増えてきた気がする。実は起きていて、気付いてないふりをしているのかもしれない。


 部屋に入り、小さな折り畳みの卓袱台を引っ張ってきて高杉の寝ているすぐ側に出す。その上に酒類を出して置いた。
遠慮なく音を出しているけれど、高杉は起きる気配がない。

 カップ酒の蓋を取り、一口飲む。口の中で刺激を転がして喉に送りこむ。部屋の中に酒の香りが満ちた。

 もう一度酒を口に含むと、眠っている高杉に覆い被さって口移しで酒を流し込んでやる。
高杉の喉が鳴って、飲みきれなかったらしい液体が口の端から零れる。

 高杉の右手が、そっと俺の襟足を撫でる。そのまま髪を逆なでるようにして、掌で後頭部を包む。

 高杉の唇から零れた酒を舐めとり、もう一口分、高杉の口中に酒を流し込む。
喉仏は上下し、唇は喘ぐように半開きになった。

 高杉はずっと伏し目で、こちらを見ない。

 この程度の量の酒では朱は散らないだろうが、障子が廊下のオレンジの光を透し高杉の顔を淡く照らし出している。
薄らと部屋の中もオレンジに染まっている。何かの体内のように、ざわざわと。

 高杉の唇を食んで、舌を吸う。

 高杉も段々とそれに応えるように、舌を自ら動かす。
差し出された肴を味わう。

 高杉が、こちらを見たような気がした。近すぎるとよく見えないけれど、睫毛が当たる感触がする。


 見ている。


 壺中の天。ここは別世界で美酒佳肴が用意されている。


匣十八

二次創作や創作の小説(メモ)をちょこちょこ書いてます。
時々銀高ぬいぐるみ遊びしてます。